【コモディティ化しない強み】レベル1に戻らない転職を――起業家が目指すべきキャリア形成とは

石割由紀人さん/公認会計士

(プロフィール)
1970年生まれ。公認会計士・税理士/株式上場支援コンサルタント。国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(監査・税務)にて監査、株式公開支援、税務業務に従事後、外資系通信ベンチャーのCFO、大手ベンチャーキャピタルでの投資実務、上場会社役員などを経て独立。著書『株式公開を成功に導く資本政策立案マニュアル』(中央経済社)、『ベンチャーキャピタルからの資金調達術 VCがお金を出したくなるビジネスプランのつくり方』(ぱる出版)」を刊行。

IPO(株式上場)を目指すベンチャー企業を支援する公認会計士として活躍する、石割由紀人さん。大手監査法人や外資系ベンチャー、さらにベンチャーキャピタルでの勤務で得た幅広い知見を武器に、「投資家の考え方」と「起業家の気持ち」が分かる公認会計士として数多くの企業を支援している。

独立に向けてさまざまな現場を渡り歩いてきた石割さんの経験は今、どのように生かされているのか。そして、成功するベンチャーの条件とは? これからの起業家に求められる「キャリア形成」をメインテーマに、お話を伺った。_MGP1950

最初の挫折は高校生。公認会計士を志し、自己変革へ

――まずは石割さんが起業に至るまでのお話を伺えればと思います。会計士を目指したのはいつ頃でしょうか?

石割:学生時代は、将来のことを明確に考えているようなしっかりした若者ではありませんでした。ただ漠然と「手に職をつけたい」と思っていましたね。

高校受験で志望校に落ち、滑り止めで合格したとある付属高校からそのまま大学へと進学したのですが、その時点で少し挫折を味わったんです。社会へ出ることに対し漠然とした不安を抱えるようになったというか。一方、私の出身大学では公認会計士になっている人間が結構いたので、自分も本気を出せば受かるんじゃないかと考えて、勉強を始めました。

――高校生の時点で挫折感を味わっていたのですね。

石割:はい。でも、自分では「受験に落ちたのは何かの間違いだろう」くらいに思っていて、心の底から反省していなかったんでしょうね。中学生の頃から、良かったときの模擬試験の結果だけを見てにやにやするタイプだったんです。詰めが甘いというか、原因と結果が分かっていないというか、コツコツと勉強したことがなかったんですよ。

大学には公認会計士を目指す講座があったので、入学してすぐに受講したのですが、あっという間に落ちこぼれてしまいました。努力しないから、授業の内容についていけなくなってしまったんですね。その後は、勉強全般からもドロップアウト気味でした。

――そこからどのようにして立ち直ったのですか?

石割:あっさりと会計士に合格した同級生に言われた一言がきっかけです。「お前は自分のことを、努力しなくても結果を出せるタイプだと思っているんじゃないか? 俺はお前みたいに、“根拠のない自信”は持っていないから合格したんだ」と。図星でした(笑)。

それからは原因と結果を考えるようになり、計画性を持ってコツコツと1日14時間の勉強を続けて会計士に合格しました。

――会計士を目指す過程で大きな自己変革があったのですね。

石割:そうですね。でも、当たり前ではありますが、本当の厳しさは社会に出てから味わいました。「社会に出たら、ビシッと決めたスーツで丸の内あたりを闊歩するぞ」なんて思っていましたが、現実は全然違う。外資系の大手監査法人に就職したのですが、そこは先輩の鞄持ち(パソコンや書類)をして、ひたすらついていく、厳しい縦社会組織でした。

下請け仕事をもらい続けるような人生にはしたくない

――今だから笑える、新人時代の失敗談などはありますか?

石割:『監査六法』という、会計士にとってバイブルのような本があるのですが、常に携帯しているよう指導されていたにもかかわらず、ある日、上司に同行してクライアント先へ伺う際に持ち忘れてしまって……。こっぴどく叱られましたね。「今すぐに買ってこい!」と言われて、近くの書店まで走りました。そんなことを繰り返しながら、泥臭く鍛えられたんです。

――その頃からすでに「いつかは独立しよう」という思いがあったのでしょうか?

石割:何となくは考えていましたね。ただ、大手監査法人で監査の仕事をするのと、独立して自分で仕事をするのとでは大きな違いがあるので、監査経験だけでの独立は差別化できないので厳しいのではないかと考えていました。

監査は、企業の決算書が正しいかどうかを、金融商品取引法や会社法に照らし合わせて検証していく仕事です。一方、独立するとなると税理士として働く人が多いのですが、会計士と税理士では仕事の中身が全然違うんですよね。税理士は税務申告書の作成をはじめ、会社の利益の為に動きますが、公認会計士の監査は、会社側の利益よりも投資家や株主の利益の為に動く。同じように企業から報酬を受けていても、「誰のために働いているか」という立ち位置が異なるんです。

そんな背景もあって、将来の独立を視野に入れて監査法人からグループ内の税理士法人に移動させてもらいました。28歳のときですね。

――そうした形で異動し、キャリアを積もうと考える方は周りにも多かったのですか?

石割:いえ、私のようなタイプはどちらかといえば少数派でした。上司からも引き止められましたが、「独立するためには税務が分かる人間になりたい」との思いから税務部門に転籍しました。

すべてのキャリアが現在につながっている

――その後、石割さんはベンチャー企業に転職されていますね。このときはどんな思いで動いたのでしょうか?

石割:事業家の近くで、背中を見ながら働きたいと思ったんです。そのほうが事業のリアリズムを体感できるのではないかと。

外資系通信ベンチャーに経理部長として参画し、シンガポールテレコムやドイツ銀行などから、約10億円の資金調達をする仕事を経験しました。上場を目指して動いていたんですが、私が入社して1年ほどで資金繰りが悪化。年間売上が1億円なのに、毎月5千万円の経費をかけている状況で、やがて事業が立ち行かなくなってしまったんです。

――年間1億円の売上に対して毎月5千万円の経費というのは……。

石割:いかに開発に力を割けるかというところで勝負していたんですよね。ヒットを生み出せば大きな利益が期待できる、と。Ph.D.(博士号)を持つ優秀な技術者を世界中から集めていました。思えば「0か100か」というビジネスモデルだったんです。最終的にはM&Aで事業を売却することになりました。

――そこでも、すぐに独立せずベンチャーキャピタルへ転職されたのはどうしてですか?

石割:経理部長という立場であれば会社側の財務・経理を完全にハンドリングできるようになれると思っていたのですが、実際に資金調達に動いてみると、お金を出す側のペースですべてが進んでいるような気がしたんですよ。

通信系ベンチャーにいた頃、アドバイザーとして投資銀行出身のフランス人弁護士にファイナンスのサポートを依頼していました。彼の作るキャッシュフローのフォーキャスト(予測)や、投資家向けの資料を目にして、「これはすごいな」と。当時は会社を買収して動かしていく「ファンド」というものが注目され始めた時期だったので、一度その業界に飛び込んでみるのも面白そうだと感じました。独立はそれからでも遅くないだろうと。

そこでは、M&AやMBO(経営陣による企業買収)を駆使したバイアウト投資などのいわゆる「プライベートエクイティ(未上場企業の株式)」実務や、投資先へのストックオプション導入などを経験しました。ベンチャーキャピタルという立場からの資金調達の仕組みが分かりましたし、資本政策の勘所もつかむことができましたね。

――独立という目標に向かって、着実にやりたいことを実現してきたキャリアなのですね。

石割:まあ、落ち着きがなかっただけなのかもしれませんが(笑)。実際にすべてのキャリアが現在につながっていますね。

キャリア作りという観点で言うと、賃金をもらうため、収入を増やすためだけに、将来の展望無しに転職をするのはもったいないと思います。RPGゲームで転職をするとレベル1からやり直しになってしまうものがありますが、そうならないよう、職種や業界など自分の中にある共通テーマに沿って動いていくべきです。それでも自分の目標に向かって着実にスキルを積み上げていける転職ならアリだと思います。自分のキャリアにシナジー効果が生まれ、人脈や経験がつながっていきますからね。

新たな事業機会に挑戦し、コモディティ化されない強みを持つ

――現在、財務面から起業家を支援されていますが、その根っこにはどんな思いがあるのでしょうか?

石割:何よりもまず、「起業家が好き」なんですよ。会社員気質ではなく、起業家気質を持った人が好き。動物の群れで例えるなら、新しい生活環境と食料を最初に見つけて、リーダーシップを発揮していくような存在ですね。だから自然と起業家を応援したいという気持ちになるし、自分自身もそうありたいと思っています。

ビジネスというか、自分の利益の面だけで考えていたなら、ベンチャーではなくて証券・不動産系の仕事をしていたと思います。ちょうどファンド・証券化ブームが来ていた時期でもありましたからね。ただ、単純にお金儲けができるというだけでは、あまり面白味を感じないんです。もちろん現実問題としてお金は必要ですが、どうせやるなら面白い方がいいじゃないですか。

――そうした起業家をたくさん見てきた中で、成功する人にはどんな共通項があると思いますか?

石割:「事業機会に対する鼻が利く」ということでしょうね。人の真似事ではなく、新しいことに挑戦したいのなら、鼻が利くかどうかが何より大切だと思います。その上で、ある程度のマーケティングのセンスを持っていること。

私の場合、上場を目指しているベンチャー企業に多い「ストックオプション発行」という事業機会をとらえています。ストックオプションを発行するためのスキームや、評価などオプションについての知見がある人は、同業でも限られていますからね。こうした案件は社長の専決事項であることが多いので、早い決裁スピードも期待できます。新たな事業機会を見つけ、積極的に挑戦していくことで、コモディティ化されない強みを持てるようになるのだと思います。

――最後に、石割さんの今後の展望についてもぜひお聞かせください。

石割:今後は事業規模を拡大していきつつ、メンバーが自ら考えて、新規事業を立ち上げるような、自律的な組織を作りたいですね。

将来のマクロ環境を考えれば中小の法人数は減っていくでしょうし、日本人全体の可処分所得も減っていくでしょう。雇用は流動化し、より小規模な零細企業が増えていくと思うので、対応の幅を広げていくつもりです。一方で、志を持つベンチャー企業や、新たな挑戦を始めるスタートアップ企業の支援にも、これまで以上に力を入れていきたいと思います。

(インタビュー/多田慎介、編集/井上こん)

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