「忍者体操」で日本を元気に。その想いが自分を縛ったこともあった

千本叡幸さん/株式会社Ninja EX代表取締役忍者

(プロフィール)
2012年、「日常と健康」をテーマに株式会社Ninja EX起業。従業員を大切に考える企業の健康顧問として「忍者保健室」を設置し、現代企業の健康経営のサポートに務める。「企業の健康経営」と「経営者になりたいスポーツトレーナー育成」双方のサポート事業に尽力する。得意忍術:察人術。

「“忍者”で日本を元気にしたいんです」。こう話すのは、「日常と健康」をテーマに忍者体操や忍者保健室といったユニークな事業を展開する株式会社Ninja EX代表取締役忍者・千本叡幸(ちもとえいこう)さん。2018年からは外国人向けの観光事業も開始するという。今回は、千本さんが掲げる起業理念や忍者体操誕生までの過程、起業する上で大切にすべきことなどをじっくり伺った。
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忍者体操がすべての始まり

―─「忍者体操」はどのようにして生まれたのでしょうか。

千本:東北の震災後、僕の中には、メイドインジャパンのブランド力を世界に発信したい、日本が元気でいられるようにサポートしたいという思いがありました。70年代にディスコブームがありましたが、グルーヴサウンドのリズムに乗ってみんなで踊る心地よさに僕はすごく共鳴していました。70年代って音楽や文化も刺激的で挑戦的に感じるんです。ある意味、心身が自由で健康的というか。だから限界を超えて働けて、日本は発展したんだと思います。じゃあその刺激的で挑戦的な健康法を今の時代にやろうじゃないかと。そこで考えたのが「体操」でした。

──「忍者」というコンセプトはどこから得たのでしょう。

千本:構想段階から海外を意識していたので、メイドインジャパンと聞いて真っ先にイメージされるであろう侍か忍者で勝負しようと思ったんです。ただ、侍はちょっといかめしい。忍者ならスポーティなイメージがあるし、エンターテイメント性もあります。そこで、「音・体・声を活かし、日常に感動と運動の機会を創造することで、世の中の人に健康を教導する」という弊社の企業理念と忍者を合わせ、「忍者体操」が生まれました。

起業の際には、クライアントだったお医者様に「忍者は薬や毒薬の知識と調合にも長けた真の健康人なんだ。君もその健康や運動の知識を活かして忍者になれば」と背中を押していただきました。またある日、もう一人のクライアントの社長に、「日常+健康+Made In JAPAN」=「忍者+体操」のコンセプトを伝えたら、「面白い、その話聴かせて!」と、その方と会社の皆さんが厚くサポートしてくださったことも大きいですね。これらのきっかけをくださった皆様には、心からの感謝でいっぱいです。

──忍者体操はどこで、どんなふうに行われているんですか?

千本:主に企業へ出向き、朝礼体操を担当させていただいております。僕は、これからの運動指導とは日常生活のコンサルティングであると考えています。多くの人は日常を会社で過ごしていると思うので、それで企業へ。視覚障害者支援施設(指定管理者 日本赤十字社運営 神奈川県ライトセンター)などの公的機関でも担当しています。僕の企業大義でもある「音・体・声」を使った忍者体操は、視覚以外の感覚強化による健康増進プログラムでもあるので。

忍者体操以外にも忍者保健室という「忍務」もあります。忍者が企業へ出向き、社員の方一人一人にスポーツストレッチを施しながらよろず相談を受けるというものなのですが、これがなかなか好評で。とにかく社員の方が自分自身の自己観察能力を向上させることが、各々の健康増進となり、ひいては会社の健康経営につながると思うんです。

──なぜそう思われるようになったのでしょう。

千本:芸能人やアスリート、一流企業のCEOを指導できる人はたくさんいますが、では、死を目前に病と闘っている方、いつ治るかもわからない難病で病室暮らしの方、手足脳に至るまでが不自由な子どもたちに、しかも水中と陸上両方の環境で、ストレッチや運動サポートをしてきた経験があるトレーナーはどれだけいるでしょうか。

僕には、さまざまな身体状況や生活状況の方々への運動指導経験があります。そこから導いた圧倒的な健康哲学と具体的なトレーニングメソッドこそが、忍者体操の本質であり、自己観察と環境適応の果てに生み出す自由な動作の追及なんです。トレーナーとして僕が持つ貴重な経験は、社員の方のパフォーマンス低下の発端を探して仮説立てすることや、自己の身体観察能力向上にすごく役に立つと思うんです。結果的に個人も、その個人が属するチームや組織も健康と成功を勝ち取れるのではと。

ターゲットは外国人観光客、忍者による観光事業

──最近、Ninja EXの拠点を東京都から栃木県足利市に移されたとか。

千本:はい。弊社は「観光」と「健康」というキーワードも持っていて、足利に拠点を移したのは、2018年ごろから本格的に始動させる観光事業のためです。僕は寺社巡りが大好きなのですが、足利には国宝鑁阿寺をはじめ、関東の高野山こと行道山浄因寺、ここには葛飾北斎の作品舞台でもある清心亭という断崖に建てられた絶景茶室があります。また、足利の忍者屋敷こと、からくり屋敷を離れにもつ浄林寺など、貴重な観光文化資源がたくさん残っていて、かつ東京から日帰りで遊びに行けるんです。

数多くの寺社を訪れた中で、寺社というものはかつて、その地元の保健室のような役割があったのではないかと考えています。檀家さんや近隣の人がお参りに行ったり、時に、お寺によろず相談に行ったりと。寺社という名の地元の保健室を中心に、地域の人々が集まる機能と健康要素がそこにはある。そんな寺社へ外国人観光客を招き、地域の人と共に足利の寺社をストーリーつきで案内する。そして、地域の人々が作る健康な食べ物も食べてもらう。この寺社に観光客を迎える新たなサービスづくりの際に、地方社会が抱える運動不足や食事管理をも、地域の人自身で見直すきっかけを我々は提供しようと考えています。一方、外国人観光客には、そんな生の日本の健康的日常体験を提供する。こうした寺社を活かした地域活性サポートが新しい観光や健康サービスになると考えています。

──そこでも忍者が活躍するわけですね。

千本:忍者の健康法とは、古来から続く日本の伝統文化と日常所作だと思います。たとえば、座り方や箸の使い方。そういった文化や日常所作に日本人の健康法が常に息づいていたからこそ、健康だったはず。しかし、現代ではそういったものが全部失われてきています。それって、不健康の原因の一つなんじゃないかなと思うんです。一言で言えば、手間をかけるサポートこそ忍者の使命ではないかと。

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忍者だけではない、新しい事業展開

──Ninja EX以外にもビジネス展開を計画されているそうですね。

千本:忍者保健室を始めて3年ですが、ありがたいことに高い評価をいただけています。そこで、この事業を株式会社PRIVATE TRAINERS JAPAN(プライベートトレーナーズジャパン)として今年冬に独立化させる予定です。中小企業に保健室を設置し、そこにスポーツトレーナーを配置することで企業の健康的な経営をサポートしようというもので、さらに公認会計士による経営サポートもさせていただきます。

――心身の健康以外に、経営面でも関わる理由というのは。

千本:企業を一つのスポーツチームとし、社員の方をそのチームの選手、そして我々がチームトレーナーおよびチームの経営アドバイザーというスタンスなんです。今、どの企業も社員のメンタルサポートやストレスチェックに頭を悩ませています。僕らは、一個人がビジネスという試合会場で活躍できるようフィジカルサポート業務をメインに行うとともに、究極の企業サポーター「現代版忍者」として経営サポート業務も提供させていただければなと思います。

同時に、我々のようなスポーツインストラクターやトレーナーといった健康従事者が、健康な賃金で、健康な時間感覚で、かつ健康なフィジカルパフォーマンスで働けるよう、彼らを経営者として育て上げ、活躍できるようサポートすることで、社会的地位を向上し、市場を拡大することも理念としています。心身と生活が健康的な人間が、運動や健康法を教導するからこそ、世の中の人々、そして経済に本当の健康を与えられるのだと私は信じております。

忍者が忍者に縛られる?

――千本さんにとって「失敗」とは。

千本:僕は、特技のスポーツ指導や得意な忍者の知識を基に起業したのですが、一番の失敗は「得意なことで起業してしまった」ということですね。

──得意なことならうまくいきそうですが……。

千本:それが、そうでもないんですよね。スポーツ指導の知識や経験はもとより、僕は忍者のこともさらに徹底的に調べたので、忍者というコンテンツについて相当得意になったつもりでいましたが、逆にそれに縛られるようにもなってしまったんです。もともと僕には、「体操」=「刺激的で挑戦的なリズム+70年代のディスコのような自由なイメージ」がずっとあったため、最初は忍者の格好なのに音楽は忍者とかけ離れていたり、またその逆に、一般的な忍者を連想する動作や振り付けを考えるようになっていたりもしました。忍者に縛られて自由ではなかったですね。その果てに、大好きなことはもっと別のところにあることに気がつきました。

──得意と大好きは違う、ということでしょうか。

千本:そうです。僕は国内外のCEOや各界の一流人を見てきましたが、自分で昇りつめたタイプの人は、自分のやりたいこと、大好きなことで突き進んできたからか、精神がとても自由なんです。健康とは、そういう自由なところにあるものだと思います。

──ありがとうございました。最後に、起業を目指す方へのメッセージをお願いいたします。

千本:一つめは、大好きなことで起業することが大切です。お金がついてくるかは本人の価値観によるもので、それは後々の話だと思うんです。それよりも、大好きなことで、長く楽に健康的な環境で経営を続けられるかということが重要です。二つめは、耐え忍ぶ精神力。三つめは、旅中、住職にいただいた「自利利他」という言葉。「自分の利益を求めるときは、他者の利益をも考え求めなさい」という教えでもあるようですが、僕は、これを逆の意味にも捉えています。つまり、自分が健康かつ良き利益があれば、他者にはより良い健康と幾千もの利益をもたらすことができると。この言葉に秘められた表裏の意味をバランスよく意識し、自らの健康体を保つことが大切です。

(インタビュー・文/大橋博之、編集/井上こん)

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