アイディアは糧の組み合わせから生まれる――「妄撮」の仕掛け人に聞く企画力とは

小林司さん/編集者、妄撮P、ミスiD実行委員長

(プロフィール)
講談社企画部所属。女性誌、男性誌の雑誌編集を経て、「妄撮」シリーズ、『水原希子 KIKO』『二階堂ふみ 進級できるかな』『玉城ティナ Tina』など女の子本を多く手掛ける。2012年に個性派女子オーディション「ミスiD」をスタート。

大ヒットシリーズ「妄撮」を生み出した“妄撮P”こと小林司さん。現在、ViVi看板モデルの玉城ティナなどを生み出したアイドルオーディション「ミスiD」実行委員長を務める彼に「妄撮」ヒットの裏側と仕事相手の口説き方、アイディアを生むために必要なことを教えてもらった。Tkobayashi

もはやWEBには太刀打ちできない。紙にしかないやりかたを探せばいいと思った

――大ヒット企画となった「妄撮」は、何がきっかけで生まれたのでしょう。

小林:80年~90年代に弊社から発行していた「Hot-Dog PRESS」の廃刊が大きかったですね。この雑誌には当時ファッション、グルメ、エロ、車など若い男の子が興味のあることが集約されていたのですが、「Hot-Dog PRESS」以降、男性誌はタコ壺化されてしまい、ファッションならこれ、グルメならこれと各ジャンルの専門誌しかなくなってしまったんです。そこに危機感を覚えた僕を含めた弊社の人間が新しい総合誌を作ろうと立ち上げたのが「KING」でした。その中のひとつのコーナーとして、グラビアを掲載することが決まったのですが、エロ動画が毎日観られる時代に水着の女の子を載せてもつまらない。ただ過激なだけではWEBには太刀打ちできないと思ったんです。

――たしかに、コンプライアンス的にも難しさがありますしね。

小林:そうなんです。雑誌がすべきことは、品を保つことと頭を使ってギリギリのエロを見せることだと思うんです。とはいえ、当時はなかなか具体的な案が浮かばずにいました。そんなとき、知人からあるフォトグラファーがニューヨークから帰国するから、ブック(営業写真)を見てほしいと言われたんですよ。それが今の妄撮フォトグラファーとなるTommyさんでした。彼は現地でファッション関連のポートレイトを撮影していたのですが、実は、その中の「コートを少し破くと下のワンピースが見える」という、オリジナルの“Tear(=破く)”シリーズを見たときに「これだ!」って思いましたね。これが妄撮の原点です。

――それからすぐに企画が始動し、1回目からかなりの反応があったようですね。

小林:当時は今ほどSNSが発達していなかったため、葉書などで反応を待つしかなかったのですが、読者よりも先に同業者やフォトグラファーなどから「一本取られた」「あれはすごいね」という声が続々届きましたね。そのとき、これはすごい企画なんだとあらためて感じることができました。でも、その時点ではまだ“妄撮”というタイトルはなかったんですよ。

――「妄撮」ってものすごくキャッチ―でインパクトのあるタイトルですよね。

小林:ありがとうございます。1回目ですごくいい反応をいただいた後、すぐにタイトルをつけろと編集長に言われ、Tommyさんと意見を出し合ったのですが、なかなか決まらなかったですね。Tommyさんはカッコいい横文字のタイトルを提案してくれるのですが、カッコいい写真にいかにもクールなタイトルをつけると逆にカッコよすぎるんですよ。それよりも一発でわかるような、たとえば篠山紀信先生の「激写」シリーズのようなものがいいと思っていたんです。そのときに注目したのが、“妄”という字。当時の06年というのは、萌えカルチャーが流行っていたり、女性がエネルギッシュになることで男性が弱くなっていたりと、どうしても男性が内にこもる傾向がありました。攻撃的なエロよりも「妄想」の方が時代を反映しているんじゃないかと思ったんです。で、「妄想を撮影する」で“妄撮”と二文字並べてみたらしっくり来まして。次号から“妄撮”というタイトルでシリーズ化することに決まりました。

“0”から生まれる企画は、もうこの世には存在しないんです

――そこから、企画が爆発的ヒットとなっていったんですね。

小林:夢も希望もない話をしてしまいますが、2000年代にもなれば大体のことはやりつくされていて、0から生まれる企画ってもうないんですよ。だからこそ、ジャンルの異なる様々な組み合わせが大事になってくる。そこにタイトルがハマれば、大きく成長すると思います。

――作品をヒットさせた後、次の企画に対してのプレッシャーはありませんでしたか?

小林:ありましたね。でも、まず“妄撮”をちゃんと形にしたいという思いがありました。雑誌は毎号なくなるものですが、本は作品。ちゃんと1冊の本にまとめたかったのですが、そこには大きな壁がありましたね。実は、グラビアのオムニバス(独立した作品をひとつにまとめること)写真集というのは、これまでまったく売れなかったんですよ。そんな前例もあって、社内会議で妄撮は出版できたとしても初版で少ししか刷れないということに本当に腹が立って、部数を決める営業部と真っ向から話し合いをしましたね。「この作品は企画にお金を払うグラビアで、人物にお金を払っていたこれまでのグラビアとは違うんだ」と。発想を変えてくださいと何度も営業と話し合った結果、なんとか7000部で発行できました。そうしたら、発売翌週にamazon総合ランキングで上位に、さらに翌週には1位を獲得することができたんです。実績を出したとたん、営業は手の平を返してきましたけどね(笑)

ときには目の前にいる人を論破する“詐欺師”のような話術も必要

――ここでの営業部とのやり取りが、かなり大事なものになったんですね。

小林:そうですね。言い方は悪いですが、嘘をついたりごまかしたり……ここというタイミングでハッタリを言う大切さを再確認しました。たとえば相手が数字を持ち出してくるのであれば、僕は数字以外の説得力で返さなくちゃいけない。数字に数字で返すと泥レースになってしまいます。この先得られるであろう実績を相手に分かるように説明する話術が必要なんです。

――その戦い方は、出版ではなくても通じるものですよね。

小林:そうですね。作った人間がどうしていいと思うかということを話して論破できれば、その力はどんな場面でも使えると思います。でも、自分でどんなにいいと思っていても、当然ながら全部が当たるわけではありませんよね。それなら、言葉を選ばずに言えば「詐欺師」のような力もときには必要なんじゃないかと思うんですよ。この企画に乗ればいいことが起きるぞと信じさせるんです。

――話術や人間力が大事ということでしょうか。

小林:はい。その総合力をさぼってしまうと、たいがい失敗してしまいます。熱意や話術、そして周りを巻き込む力が成功につながっていくと思うんです。

まとめサイトや自己啓発本を読むひまがあったら、体感することが大事

小林:実は僕、自己啓発本やまとめサイトなどが大嫌いなんですよ(笑)。あんなまとまった答えを受け取って影響されるのって、まったく力にならないと思うんですよね。それよりも、きちんと自分で体験すること、感じることが大事だと思うんです。つまらないものの中にも得るものはたくさんあるはず。それこそが新しい発見に必要なことだと思うんですよね。

――ありがとうございました。では最後に起業を目指している方にメッセージをお願いします

小林:最近、若い方と話していると、自分の興味のあることにはすごく詳しいのですが、それ以外のことに無関心というパターンが多いんですよね。それはきっと、先述の通り、まとめサイトなどで知った気になっている方が多いからだと思うんです。でも、それではいざアイディアの種に出会ったとしても、自分の中に掛け合わせるものが見つからず、新しいものを生み出せません。アイディアというのは、ありとあらゆるものに手を出していないと生まれないものです。他人がまとめたものなどではなく、自分の目で、耳で、五感で体感して体験を蓄積することこそが、独創的なアイディアを生むきっかけになると思います。

(インタビュー/吉田可奈、編集/井上こん)

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